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2004年10月 アーカイブ

2004年10月01日

トレーサビリティ=安心+安全

本日、ある会合で「トレーサビリティ」の定義が視点によりとっても異なることを発見しました。
例えばある農学部系の方は安全重視。「安全」は科学だが、「安心」は科学できない、と。
これは、遡及・追跡機能を実現するトレーサビリティシステムでも、遡及に着目してきた自分
とはずいぶん異なり新鮮でした。ディシプリンが違えば視点が違うということを聞いたことは
ありましたが、まさに実感、「なるほど、そういう見方もあるのか」というのが素直な感想です。
その会合では、食品トレーサビリティの議論が混乱を招いていたんですが、その原因はこ
れまでの農水省のトレーサビリティ実証実験で、?生鮮食品のトレーサビリティでは「顔が見
えるトレーサビリティ」つまり「安心」が中心に語られ、?加工食品のトレーサビリティでは「食
品衛生」つまり「安全」が中心に語られてきたという点です。
個人的な見解ですが、問題の根本は、農水省のトレーサビリティシステムの目的が明確に
定義されていない(少なくとも会合メンバーでシェアされていない)ことにあったように思いました。
e-Japan戦略?の文脈で考えれば、トレーサビリティは、「安心・安全な社会作る」社会シス
テムのひとつと位置づけられます。したがって、安心と安全の双方を担保するシステムでなけ
ればなりません。
ただし、安心と安全は分けて考えるべきものです。安全は安心の大前提ですが、安心は安全
が達成されれば達成されるというものではありません。だから私はトレーサビリティシステムを、
基本的には、安心を担保する情報開示システムと、安全を担保する品質管理システムから
成ると考えています。双方を追及する必要があります。
ここで、元SE的視点になりますが、金銭的・時間的制約のあるシステム開発PJでは、システムの
目的にあわせて開発に優先順位付けをする必要がでてきます。トレーサビリティシステム開発も、
どちらを優先するかが、事業ごとに異なって然るべきです。農水省のこれまでの実証実験も、
こうした視点で整理してみれば、次回は議論の糸口が探れるのではないかと思いました。
トレーサビリティは「可視化」(visibility)を実現します。経営学的にいえば、従来は管理でき
なかったモノ・コトを管理可能にする→無理・むら・無駄をなくなる→効率化を達成→経済的利益
とつながります。
トレーサビリティを実現する技術のひとつがRFIDです。RFIDはSCMの効率化で注目されがち
ですが、情報開示・品質管理でも大いに有効です。実は、同じSCMシステムも見方を変えれば、
品質管理ということもできます。RFIDで実現するSCMは「個別のモノ」がどこにいったか履歴
を取るシステムなので、食品ハザードがあった際に、ピンポイントでリコールをかけることを
可能にします。安全を担保する品質管理システムであり、公表することで消費者に漠とした
不安を与えずに済むので、安心を担保するシステムということができます。
長々とかいたので、そろそろ店じまいしますが最後に注釈。
すでにお気づきかもしれませんが、品質管理システム、情報開示システムというとき、私は
「システム」をかなり漠然と広い意味で使っていました。工場内の品質管理ソフトウェア、情報
開示Webシステムというレベルではなく、人間系システムも含めています。
そうそう、情報開示は企業活動では「アカウンタビリティ」です。これについても、今日の議論で
これまで以上に重要だと思う確信を強めたのですが、これは別の機会に書いてみたいと思います。

2004年10月03日

國領DNA?

昨日はKBS M24期の同期会で沖縄ダイニング&ステーキ ラ・ティーダへ。
久々に40名弱が集ったんですが、びっくりは2人から「SFCの学生がインターンに来たヨ」と言われたこと。
IT大手I社と、メディカル企業J社で活躍中のKBSレディースだったんですが、インターンしてた学生も、
SFC人脈の薄い私が知ってる学生達だったのがスゴイ!SIV Business Plan Contest 2003優勝者で
シンガポール
までいっちゃう高橋君といい、國領DNAもSFCで着実に培養され社会進出してるんですね・・・

2004年10月11日

RFIDをめぐるプライバシー

RFIDプライバシー関連の研究について、Webで調査をしていたコロラド大学研究員の方から10/5に
メールを頂いた(ひゃ?ビツクリ)。リクエストに答えて送った資料と、頭の中のダンプをメモしておきます。
<資料>
1)Traceability System for Disclosure(Keio).pdf
 2004年9月のAuto-ID Labs Workshop Zurichで発表したもの。Auto-ID Labsは、RFIDの学術研究
 組織。世界6拠点の1つが慶応大学。他は、MIT(米), Cambridge(英),Adelaide(豪), Fudan(中),
 St.Gallen(スイス)。EPCNetworkの普及を図るEPC Globalと連携している。
2)RFID入場券システムにおけるプライバシー意識に関する考察.pdf
 2004年11月の経営情報学会秋季大会の予稿。
3)プライバシー研究メモ.pdf
 上記予稿のためのプライバシー概念に関するメモですが、最終稿からは省いたもの。
 冒頭の方がWebで見つけてくれた2003年度のネットワーク社会論の授業資料に一番近い内容。

<脳みそダンプ>
私にとって、RFIDは、トレーサビリティを実現する識別技術のひとつ(他は2次元データコード、バー
コードなど)で、最も注目している技術という位置づけ。注目している理由は、リサイクルやリユース
も含めたトレーサビリティシステムの普及には、個体識別が可能なRFIDの活用が鍵となるから。

RFIDをめぐるプライバシー問題は、消費者の手もとを流通する商品にRFIDが貼付される際に派生
する問題で、ほうっておくとRFIDをトレーサビリティシステムで活用できなくなってしまうと思っています。
RFIDをめぐるプライバシーは新しい分野だけに先行研究があまりありません。でも、社会的受容を
得てRFIDを利活用していくためには、避けて通れない研究です。そうした観点で、そもそもはプライ
バシーや個人情報保護法の専門家ではない私もプライバシー問題を調査しています。

上述の資料では以下のことを書いています。
・トレーサビリティに取り組み情報開示することは、企業イメージを高め消費者の信頼を得られる
・プライバシー保護のためには利用者へのNoticeが重要であり、企業側にもNoticeのインセンティブが存在する。
Noticeは、RFIDを活用する組織が、利用者に対し果たすべきアカウンタビリティのひとつですが、
最近は、NoticeはNoticeでも、日本語で言うと「告知」ではなく「認知」まで実現しないとダメなの
かなという思いがしています。

ID技術は、visibilityを高める技術で、visibilityが高まることの光と影を考えた場合に、プライバシー
侵害は影の部分になります。私は経営学の視点なので、私達消費者は利便性や安全性とプライバ
シーを天秤にかけて、商品やサービスを消費していると思っています。判断する際に重要なのが、
個人情報を提供する相手に対する「信頼」で、アカウンタビリティは、RFIDをめぐるプライバシー問題
を解く鍵だと思っています。

冒頭の方からは、「大量のNoticeが送られてきた場合に個人がこれをどう消化できるようにするか」
という問いかけもいただきました。確かに情報処理は大きな課題だと思います。人の認知限界を超
える多量の情報が流れているので、自己情報コントロールなど現実的には不可能ではないかと思っ
ています。自分に代わって監視してくれるITサービスや、ネット上の情報のクリアリングサービスなど、
新しいビジネスが出てくるのでしょうね。
それと共にプライバシーの概念自体も今後も少しずつ変わっていくのでしょう。

補足ですが、visibilityは監視社会論の分野でいう透明性や、海外の生産管理・プロセス管理の分野
の論文でobservabilityと言われたりしているものと、概念的に重なると思っています。
実は来週、まさにobservabilityという知る契機になったCambridgeの研究者Dr. Duncan McFarlane
会いに行きます。今週末は準備のためベイズ統計をにわか勉強しなくちゃいけません。(ひぃぃ)

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